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今月のエッセイ

『私と昆虫生態画』中島 ひとみ



生態画を描き始めて十数年、野生生物の生態に魅了され、現在は主に昆虫の細密画を描き続けています。

生態画を描くためには、まず描くために必要な資料を用意する必要があります。
私の場合は、「採集」、「飼育」、「観察」を経て標本を制作し、信頼のできる書籍を読み、描く昆虫 の下調べをしてから標本を計測しながら図案を起こしていきます。
そのプロセスの中で生物の進化の理由や不思議なメカニズムを知ることも生態画を描く上で大きな魅力の一つでもあります。
研究者のような探究心と地道な作業の数々、膨大な資料と時間をかけてやっと一枚の絵が出来上がります。

今でこそ標本まで制作することができる私ですが、実は以前は大のイモムシ嫌いでした。
夏に大量発生する毛虫に悩まされたこともしばしば。
しかし、ある日野鳥を描いていてふと『なぜ鳥類は美しいと感じて、イモムシは気持ち悪いと感じるのだろう? 私にとって「鳥」と「虫」の違いはなんだろう?』と思い、書店で一冊のイモムシ図鑑を購入して読んでみることにしました。
初めは恐る恐るページをめくり、怖さが半分、好奇心半分。
意図せず毛虫のページを開き、それ以上読むことを断念した日もありました。
ところが、図鑑を読み続けて数カ月。
あれだけ嫌いだったイモムシへの嫌悪感がほとんどなくなっているではありませんか。
ふたを開けてみれば、私の虫嫌いは単に見慣れない生き物が怖いというだけのことだったのです。
思い返して見れば、子供の頃はカブトムシやクワガタ取りに夢中になったり、変わったイモムシがいれば家へ持ち帰ったり してよく母に怒られたものでした。

気が付けば、自宅には昆虫図鑑が増え、採集セットや飼育ケースまで一通りそろってしまいました。
彼らの派手なもしくは、地味な色や紋様の意味、はかないながらも日々を懸命に生きる姿に心を打たれ、 その美しさや面白さをアートで表現し作家としての活動をとおしてもっと多くの人に知ってもらいたい。 そんな気持ちを込めて日々制作に取り組んでいます。

庭先で、道端で、公園で彼らを見つけたら、ほんの少しだけ観察してみてください。
臆病な昆虫、人も威嚇するような強気な昆虫、食事に夢中でこちらを気にも留めない食いしん坊な昆虫、 虫にも人と同じように個性があります。
皆さんも昆虫の生活をちょこっとのぞき見してみませんか。