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今月のエッセイ

『昆虫採集記』ささきひろみ


                                          


息子が5歳になった頃から「虫」に興味を持ち出したので 夏はクワガタやカブトムシを採集し、しばらく飼育するのが 恒例となっている。札幌近郊ではもっぱらミヤマクワガタが見つかりやすく、 毎回何匹か捕まえて帰ってくるのだが、実は夫の功績。 「虫捕り」という分野において、初めて夫の違う才能みたいなものを見た。
未だにクレジット・キャッシュカード無、スマホ、メール、パソコン無縁の夫だが、 やはり生まれてくる時代を間違えたと確信させるような生き生きとした様子で 目が輝かせ俊敏に山を飛び回っていたのである。

7月某日、早朝ジャージにランニングという軽装で、レジ袋一つ持って 札幌中心部から車で1時間くらい、ちょうど渓流釣りが出来そうな 小さな川があるあたりを狙いに行く。
子供が歩き回っても危なくない程度の 山道を選び、保険のバッタを捕まえながら進んで行く。
森の茂みを見つめて「コナラ」の木を探し、「あ!いた」と言った途端わしわしと 茂みをかき分けて木々の中に消える。
腕や顔に木の枝で切り傷が出来ても気にならないらしい。
数メートル上の薄暗いどこかにいるのが見えるらしく、 声はどこから?と思ったら木の上。
80kg近くあるのに、ユッサユッサ 木登りするスピードは動物園で見たオランウータン並み。
家の中では目の前の爪切り、靴下、しょうゆどれ一つ見つけられないというのに、焦げ茶色 の上にいる小さな焦げ茶色のクワガタがなぜ見える?彼らが保護色に生まれた立場が無い。
その上ちょっと腐ってる木の皮を生手でバリバリ剥がし、中でうごめく幼虫やさなぎを 息子に見せる。
私は見るのも嫌だが、息子にとっては宝が見つかったかの喜びよう。

子供にとっては教科書で勉強出来ない、 生きた「理科」を見せるという点ではとても良いのかもしれない。
私も子供の頃、コレ見たかったなぁ〜なんて思っていたら、 本人は野生のまま気の向くままにやっているだけのことだから 当然飼い方も型破り。
袋のまま持って帰り、くんずほぐれつのクワガタ相撲見たさに 手作りの虫ケースに全員タコ部屋状態にするから予想通り即大ゲンカ。
息子と夫は大喜びで、そのうちお祭りで当たったセアカフタマタクワガタや キャンプで捕ってきたカブトムシも追加してしまった。
その結果4匹いたミヤマクワガタは全員敗れ去り、 どういう訳かカブトムシとセアカフタマタだけ 晩秋まで微妙な距離感を保って生き延びていた。

家の中に虫を置いておくのは、私としては喜ばしいことではないが、 こうまで刺激的な「理科の時間」を頂いてしまっては、許さざるを得ない。
あきらめて来年も、「深夜のゴソゴソ音」と共に過ごすことになると思う。

   

捕獲直後のミヤマクワガタ
捕獲直後のミヤマクワガタ

木の上の夫
木の上の夫

採取した森
採取した森

防虫網で制作した虫カゴで戦うクワガタ
防虫網で制作した虫カゴで戦うクワガタ