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今月のエッセイ

『ヒゲワシの羽色の話』渡辺 靖夫


                                          

ヒゲワシ

ヒゲワシ



ヒゲワシ

ヒゲワシ


2007年、韓国国立渡り鳥研究センターからのオファーを受けて「Field guide to the Raptors of Korea-韓国猛禽類フィールドガイド」の制作業務に携わりました。
その時に資料として頂いた韓国で観察された猛禽類のリストの中にBearded Vulture, (Lammergeyer)の文字がありました。
私の憧れの鳥「ヒゲワシ」です。
ヒゲワシはユーラシア大陸南西部から北アフリカにかけて分布する一属一種の大型猛禽類です。
ハゲワシに近縁で、屍肉のほか動物の骨髄を食べる事から鳥葬に使われる鳥としてよく知られています。
朝鮮半島へは1900年代初頭に若鳥の迷行記録があるのみだそうです。
 イラストの作成にあたり、やはり一度は実物が見てみたいと探しましたところ、静岡市の日本平動物園で飼育されていることが分かりました。
中国よりつがいで送られたそうですが、オスは死んでしまい、現在はメス1羽のみとなっています。
 早速取材に出かけましたが、観察した個体の体羽は非常に白く、図鑑や画像などで良く見るような橙褐色味を帯びた色ではありません。
違和感を感じながらもその時は地域などでの色の差があるのではと、あまり深くは考えていませんでしたが、帰宅後調べてもそういう記述は見当たりませんでした。
結局理由が分からないままモヤモヤとしていたのですが、後日知人より興味深い話を聞くことができました。
その知人はバードウォッチングのツアーガイドとして活躍されていた方で、野生のヒゲワシも観察されたことがあるそうなのですが、話によると成鳥のヒゲワシの体羽は本来綺麗な白色なのですが、成熟すると鉄分を多く含んだ汚泥に浸かり泥浴びをすることで羽色を橙褐色に染めるのだそうです。
そのため泥浴びをしない飼育下の個体は白い羽色のままだったという訳で、合点が行きました。
 羽を染色する行動をとる鳥は現在知られているところではこの鳥だけのようです。
この行動の意味するところは未だ解明されていないようですが、一つの理由として、メスや高齢の個体がより強い着色を示しているという事から、status symbol(地位の象徴)ではないかと考えられているようです。
ただ、知人によるとモンゴルで観察した個体は皆橙褐色味の少ない個体だったということで、個体ごと、地域ごとによって羽色には大きい差があるようです。
 ヒゲワシですが飼育下では40年くらい生きると言われているそうですが、日本平動物園の個体はすでに30歳を超えているそうです。
現在日本でヒゲワシが見られるのはここだけ、ワシントン条約で取引が規制、保護されている種でありますので、この個体が途絶えると、おそらく日本では見ることは難しくなるものと思われます。
とても美しい鳥ですので健在なうちに是非一度見に行かれてみては如何でしょうか。
 私としては、いつの日か生息地などで飛翔している姿をこの目で観察したいと思っています。
出来ることなら日本に迷行してきてくれるとありがたいのですが.......。



引用文献

Vulture Conservation Foundation
The mystery of the orange colour in bearded vultures. What benefits do birds get from bathing in iron oxid-rich mud?
http://www.4vultures.org/2015/01/23/the-mystery-of-the-orange-colour-in-bearded-vultures-what-benefits-do-birds-get-from-bathing-in-iron-oxid-rich-mud/

NATIONAL WILDLIFE
Wild Encounters - A Vulture with Style The bearded vulture is the only known bird species that deliberately dyes its plumage; biologists say the resulting orange-red feathers may be a symbol of status
http://www.nwf.org/news-and-magazines/national-wildlife/birds/archives/2006/a-vulture-with-style.aspx

静岡市立日本平動物園
http://www.nhdzoo.jp/animals/naka.php?animal_uid=222

Chae HY,Park JG,Choi GY,Bing GC & Watanabe Y (2009) A Field Guide to the Raptors of Korea. Dream Media,Seoul