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今月のエッセイ

2007.12.15 「ネズミじゃないネズミ」 松本晶


作品のタイトル


「ネズミ」と呼ばれてはいるけれど「ネズミ」じゃない。
大きさも姿・形も一見似ているから余計ややこしい。
そんな紛らわしい生き物が我々の身近に結構ひそんでいる。
それは、トガリネズミ・ジネズミ・ジャコウネズミ(九州より南)・カワネズミの、4種のトガリネズミ科。
一番小さなトガリネズミはハツカネズミを一回り小さくした感じで、一番大きなカワネズミでほぼモグラサイズ。
彼らは食虫目と言って、モグラやヒミズに近い仲間。
だから食物はほとんどミミズや虫などの小動物。
歯もだいぶ鋭くて、種や植物をかじるネズミの仲間(齧歯目)とはまったく別の生き物だ。
とは言っても、ネズミも結構虫を食べるし、ジャコウネズミはたまに芋などをかじるらしいし、カワネズミは魚やサワガニなんかが好物だ。

彼ら食虫目はそのほとんどが地下あるいは半地下生活を送るせいで、一様に目が小さく退化ぎみだ。
脇腹あたりに腺があって臭いのか、キツネやタカも獲物としては敬遠している。
冬、林の小道で時折彼らのビロードのような小さな死体を見かけるが、確かにどれもきれいで損傷なかった。
シデムシ類がたかっているところさえ私は見たことがない。

トガリネズミの仲間たちは野ネズミ以上に警戒心が強くて動きも早く、生きた姿はめったに見られない。
それでも極まれに、真昼間の川岸近くをまるで銀色の魚のように泳ぐカワネズミや、ネズミ取り用ワナにかかったジャコウネズミ、猫にくわえられてぐったりしたジネズミやトガリネズミなどの話を聞く。
みなさんの飼い猫がネズミのような獲物をくわえてきたら、ためしに「本当のネズミ」か「ネズミじゃないネズミ」か調べてみてはいかがだろうか?

ところで、トガリネズミ科の唾液には毒成分があると言うが、これまた真偽のほどはいかに?