今月のエッセイ
『琵琶湖と海鳥』渡辺靖夫
私が暮らし、日々作品制作のフィールドとしている滋賀県には琵琶湖があります。
琵琶湖は皆さんご存知の通り、日本で最大の淡水湖です。内陸の湖なので本来海洋性の鳥類は生息していません。
水鳥や海鳥が好きな私にとっては海の無い県に住んでいる事で、海鳥を気軽に観察する事ができない事は甚だ残念では
あります。
しかし、ある時期と条件下に注目して注意深く観察を続けていると琵琶湖でも様々な海鳥を見る事ができるのです。
その条件とは大きく分けて以下のような場合があります。
1、台風
今年は大きな台風が何度も列島を通過し、各地に甚大な被害をもたらしましたが、海鳥たちにとっても台
風は厄介な存在のようです。
赤道近海で発生した台風は小笠原諸島や沖縄諸島を通過し発達していく過程でその周辺の海域で生息する海鳥を巻き
込んで内陸部まで連れてきてしまうことがあります。
琵琶湖でも過去にネッタイチョウ類、アジサシ類、カツオドリ類、トウゾクカモメ類などが見られています。
私自身も、台風通過時に琵琶湖岸でシラオネッタイチョウ(2003)、セグロアジサシ成鳥(2011)、セグロアジ
サシ幼鳥(2015)などを観察した経験があります。
こうした鳥たちは本来の生息場所には帰れずに衰弱して保護されたり、死んでしまったりすることが多いようです。
人間のみならず、鳥たちにとっても台風はとても過酷なものなのですね。
また、台風でなくとも冬季の爆弾低気圧のような荒天時にも琵琶湖で海鳥が観察されることがあります
が、これは低気圧に巻き込まれて内陸まで連れて来られてしまっているのか、比較的波などが穏やかな湖
沼などに避難して来ているのかはよく分からないところです。
なお、こうした荒天時での野鳥観察に関しては自身の安全を十分に確保して行うという事は言うまでもありません。

米原市で保護されたアカオネッタイチョウ

台風で迷行したセグロアジサシ幼鳥
2、春、秋の渡り(移動)の時期
迷行的な場合ではなくとも春や秋の渡りの時期に定期的に琵琶湖を通過している海鳥もいるようです。
日本海側で繁殖するオオミズナギドリは冬季に外洋へと移動しますが、その時に内陸を通って大河川や湖沼
などを移動ルートとして利用している事があるようです。
渡りの時期になると小さい群れでパラパラと湖面を移動していく姿を時々目にすることが出来ます。
また、早春の湖の沖合にはオオハムなどアビの仲間が集結していることが良くあり、湖面で羽を休めたり、餌を採っ
たりしながら移動していくのだろうと考えられます。
こうした季節の変わり目に出会う鳥たちを見ると、琵琶湖も海鳥たちにとって重要な渡りの中継地になっているのだなと実感させられます。

秋、湖面を移動するオオミズナギドリ

早春、沖合に集結するオオハムの群れ
3、冬季の越冬
また、ごく少数ではありますが、越冬地として琵琶湖を利用している海鳥たちもいるようです。
カイツブリやカモの仲間には越冬期には普段海上で生活している種類がいます。
アカエリカイツブリ、ミミカイツ
ブリ、シノリガモ、ビロードキンクロ、コオリガモなどの種が挙げられますが、こういった鳥たちが琵琶湖で越冬している事が稀にあります。
琵琶湖は大きい湖なので、もしかすると海と間違えて降り立ってしまっているのかもしれませんね。
こう考えるとちょっと微笑ましく思えてしまいます。

シノリガモ

ミミカイツブリ
滋賀県には海がありませんので、一般的には海鳥は見ることができないと思われがちですが、ちょっと視
点を変えて探してみると思わぬ出会いが待っていることもあります。
これもバードウォッチングの楽しみの一つだと思います。