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今月のエッセイ

『南飛騨御嶽山の麓に移住して』浅井粂男



♪木曾のなあー なかのりさん 木曽の御岳さんわ
あなんちゃらほい♪
木曽節で知られた御嶽山は長野県の山と思われてい
ますが長野県側は御嶽山の南東斜面で、北西斜面は
岐阜県です。南西側を流れる木曽川は岐阜県中津川
で飛騨川と合流しますが、飛騨川は乗鞍岳、御嶽山
の水を集めて、本流木曽川に劣らぬ流域面積を持っ
ています。
 私の住む下呂市は人口こそ少ないが御嶽山の頂上
から西側に広がる広大な面積を持ち。深い谷と標高
千メートルを超える山々に囲まれて、岩をかむ激流
は独特の渓谷美を創り出してきました。下呂市萩原
町あたりで少し開けた南北に長い盆地状の地形にな
りますが、それでも前も後ろも千メートルを超す山
が連なり、毎日のように川霧が立ち昇り、40年以
上海辺の町で暮らした私にとっては幻想的で美しい
景観に思えます。
 残念なのは御嶽山のそばにいながら御嶽山はどこ
からも見えません。唯一支流小坂川の一角に見える
ところがありますが山の肩越しにちらりと見える御
嶽山の真っ白な頂きは、今の季節、新緑にはえて感
動的です。この小坂川をわずか数キロさかのぼった
ところに「巖立峡」といい、御嶽山が54000年前に
噴火した時の溶岩流が流れ止まった安山岩の断崖が
あり、ここから17キロ上流まで続いているとのこ
と、かっては自然の驚異がこんな近くにまで及んで
いたことに驚かされます。ちなみに、私の住んでい
る下呂市は日本一の大断層「阿寺断層」の真上にあ
るそうです。

 「御嶽山の自然と文化を見直す」集い(高山市民文
化会館)に参加してきました。
御嶽山は(3067m)は中部山岳地域の典型的な
植生の垂直分布が、低山から高山までまとまった形
で見られ、氷河期から残る植物も多くみられる優れ
たフィールドを持つ山だそうです。
 氷河時代に平地でごく普通に生きていた動物や植
物が、氷河期が終わると次第に高い山のほうに追い
やられ山地帯、亜高山帯、高山帯を形成し現在に至
る様子が御嶽山では鮮明にわかるそうです。コマク
サ、チシマギキョウ、イワギキョウ。鳥ではライチ
ョウが白山、木曽山脈、八ヶ岳では絶滅しているの
にここでは30の縄張りが確認され100羽近くが
生息しているそうです。こんなに自然豊かで貴重な
生物環境が残る御嶽山が中部山岳国立公園に入って
いないのだそうです。1999年になってやっと県
立自然公園になったそうですが自然保護策が一番ゆ
るい、開発に何の規制もない開発可能な名目だけの
自然公園化だそうです。その陰には大規模観光開発
を目論む企業の意向があったのではないかと伺えま
す。事実、亜高山帯針葉原生林を、標高2200メ
ートルの高所まで切り開いてつくったスキー場も
「チャオ御岳スノーリゾート」も経営破綻し、もう
3シーズン閉鎖しているそうです。
 高山市在住の「飛騨高山ふるさとを歩こう会」の
小野木三郎会長は「日本自然保護協会」とともに御
嶽山を国立・国定公園に指定するよう国や県に要望
書を提出しています。私もまた自然を描くことを生
業とし、この地を第2の故郷と決めて移住してきた
のですから、この運動に賛同し自分にできることで
微力を注いでいきたいと思っています。

     2023年5月記    浅井 粂男