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今月のエッセイ

2009.5.2 「放鳥された朱鷺」関口猪一郎


作品のタイトル


 佐渡で放鳥された朱鷺が海を翔び越えて新潟県北部に渡った事が確認報道され、関係者のみならず一般の人々にも驚きが伝わった。
 県北部から南部の南魚沼市に飛来し隣の十日町市に現れ、更に長野県に翼を伸ばし再び十日町市に飛来したとの報に、地元の知人にその辺りの様子を確認した。
 そこは私の育った生家から10km余りの隣市の知っている地域で、最近道路や農場が整備され、側溝や用水路等でドジョウ等の餌になる生物が豊富な所で本年は小雪ですでに地面が出ており、そこで十日程留まりいずれにか飛び去ったとの事だった。
 魚沼地方には昔から小正月の十四日の夜から十五日の朝にかけて、子供達が拍子木を打ち、鳥追い歌を唱い乍ら村内を回り、田畑の作物を荒らす害鳥を追う行事があり、その歌詞の中に朱鷺の名があり、昔、農民に迷惑がられる鳥の一種として棲んでいた事が想像される。
 明治以来激減して絶滅かと危ぶまれ、天然記念物・国際保護鳥に指定され、その保護と増殖に国を上げて研究に飼育に励まれた関係者の努力にかかわらず国内産の種は亡くなり、同種の中国より移入の飼育繁殖に勉められ、その成果が実り、野性に返そうと環境を整備し餌場を作り、待望の放鳥を実現した。  長年、研究・飼育・繁殖に尽力された関係者、自然環境の整備に励まれた佐渡の地元の人々の期待に反して、想像を越えた野性の本能的感覚の行動で飛び回り、人智の及ばぬ翼を有する生物を囲いのない空間で、限定された地域に留める事の難しさを知る事になった。

   その後、佐渡から海を飛び越えた4羽は皆雌ばかりとか。
宮城県でも1羽確認されたと。どこまで翼を伸ばすやら・・・。
 佐渡にしか朱鷺の存在がなかった時代に新潟の雪の原で落鳥が発見された記録があったが、そのナゾが今回の事で朱鷺がこの様に遠くまで飛べる事を証明した事になったのでは・・・。