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今月のエッセイ

2009.8.8 「8月のコオロギ」松本晶


作品のタイトル


ジリジリと照り付ける草地で、大きな声で盛んに鳴くキリギリス。
少し離れた藪で、歯ぎしりしているのはヤブキリ。
土手の上の木立の中で、途切れることなく声をふりしぼるアブラゼミ・ミンミンゼミ・もう少数派のニイニイゼミ。

夏の昼間に鳴く虫たちはみな、あらん限りの力を出し切るかのような、叫びにも似た大声を張り上げている。
それはそれで、一シーズンの命のきらめきを充分に感じるほど切ない。

日が傾き始めると、どこからともなく、もうコオロギの声が聞こえてくる。
主にオカメとツヅレサセ、時折エンマの物悲しい声も耳にできる。

8月は2種類のツヅレサセコオロギが同時に出現する。
春から夏にかけて成虫になるナツノツヅレサセと、夏から秋にかけて成虫になるツヅレサセだ。
私が飼育しているツヅレサセは現在一部終齢幼虫になったばかりでまだ成虫になっていないから、今まさにこの時期鳴いているのは最後のナツノツヅレサセではないだろうか。
「リリリリ」とやや鋭く鳴くのは両種同じだし、姿大きさも変わらないから、見ただけでは判別がつかない。

多くのコオロギが8月半ばから鳴くようになる中で、ちょっとだけ早めに演奏を始めるオカメとナツノツヅレサセ。
身近なコオロギでよく耳にするけれど、ちゃんと見たことがない人は多い。
夏の暑さがやわらぐ夜に、彼らの涼しげな声をたよりにその姿を探そうとしても、なかなか見つかるものではない。
振動にとても敏感でそばに寄るとすぐ鳴きやむし、エンマコオロギより数段すばしこいから逃げるのも得意だ。