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今月のエッセイ

2010.8.1 『メンデリズムとダービニズムの周辺で』渡邊可久


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 メンデリズムと云ってもメンデルの時代の遺伝学ではなく、現代の遺伝学についてである。
つまりエンドウ豆ではなく、D.N.A或いはゲノムを頭においている。進化論についても同様で
ある。

 しばらく前分子生物学について読んでいた時『構造主義』といふ言葉が自然に想起された。
そして遺伝学と進化論とが構造主義の言説の上でリンクし一本の文脈を形成するように思わ
れ、一見して納得できる図形にまとめることができればと思いついた。

 私は元々分類学関係の図を描く仕事をしてきた。往年の分類学は外形を比較してその違い
を見つけて区別し系統の見当をつけるもので、それを図示したものが『系統樹』であり進化論
はそれによって説明されてきた。これは進化の最先端(というか末端)に位置していると勝手
に思い込んでいる現代人からの絵であるが、一方人間を単なる遺伝子のキャリアとしてしか
扱っていないかも知れない遺伝子の側から見れば淘汰と進化への選択基準は外形などの
『型』のみではなくむしろ行動・営為など生き方につながっていく分子変化の方が主体なの で
はないか、そであればこれは今までのような生物体を描く具象的な図ではなく抽象的な 絵
として考えてみるべきではないか、と思い至った。池田清彦さんの構造主義的しくみによ る
同心円方の図に出会ったのもちょうどこのあたりの時期であった。これは構造主義生物学 と
称するものであり、体制のシステムが基になる専門的見地からの論であり図である。この
説(図)に遺伝研の木村資生先生の武士変化の中立説をからめて白紙の状態から描きおこ
してみようというのが小生の仕事の出発点であり、ここから何年かにわたっての試行錯誤の
つみかさねが始まっている次第。

 いきなり完成度の高いものが描けるわけが無く2,3年経ってから改めてみて恥ずかしい思
いをすることは毎度であるがこれを恐れて描かず又発表せずにいては先の進展などとてもお
ぼつかないと思って描き続けているとやはり少しずつ理解してくれる人や共感してくれる人が
できてくるようである。吾々は何も学術的な真理の追究をしているわけでも学説を立てようとし
ているわけでもなくただ科学の為の解説を助ける説明図を描いているのである。心の一部で
はそれを楽しみながら描いているのである。当初立てた目的からはかなり外れた仕事しかし
ていないが考え方の進展そのプロセスを見ていただきたいと昔の絵を掲げておく。
いつか次に機会があればその後の作品を順次見ていただければと思っている。


 (左図)淘汰と進化の構造
 (右図)遺伝システムの構成期