理科美トップ > 今月のエッセイ

今月のエッセイ

2012.3.1 『鼠飼育』松本晶


ネズミ飼育箱   

                       

 ネズミはかわいい。
半ば強制的に与えられた環境下で文句も言わず食べて飲んで成長し、つがって子を産み、
そして人から見れば本当に短い命をただひたすら生き、だまって死んでいく。

私がここ数年特にハマッてしまったのは「パンダマウス」。
ニホンハツカネズミ由来で、江戸時代起源の、まさに日本のペットの元祖だ。
当時は主に大黒ネズミ(ドブネズミ)や豆ネズミ(ハツカネズミ)の飼育が庶民の間に
流行し、様々な毛色を作り楽しんでいたらしい。
「パンダマウス」は豆ネズミの中でぶち模様をした「豆ぶち」と呼ばれるものに相当す
ると言われている。
ヨーロッパ原産のハツカネズミ(いわゆるマウス)より大分小型なので、市販のハムス
ター用ケージでは隙間から逃げ出してしまう。
平成の世に生きる一般庶民の私は基本的にはガラス水槽でパンダマウスを飼育しているが、
時折面白い飼い方をしたくなる。
江戸時代の人々も工夫した飼育かごでネズミを愛でていたことが分かる。

パンダマウスは野生のニホンハツカネズミと問題なく交配する。
最初の子(F1)は優性遺伝で全て野生種カラーである茶アグーチになるが、そのF1とパ
ンダマウスを交配させると、子に以下の4種の毛色が現れる。
茶アグーチ、黒、黒白ぶち(本来のパンダマウス)、茶白ぶち(通称”茶パンダ”)で
ある。
現在はハツカネズミの毛色遺伝の発現パターンはある程度分かっているので、あらかじ
め予想を立てながら計画的に交配させてゆく楽しみがある。
一方で、パンダマウスの近交血統を守り保存し続けていくことも大切なので、交配でき
るからと言って安易にかけあわせていくことに異論があるのも事実だ。
いずれにしても相手は生き物、必ずしも予測通りには行かないし、遺伝には抑制・補足
などの働きかけが起こり変異を招くこともある。
うまく繁殖の波に乗れば、世代交代の早いパンダマウスは遺伝結果がすぐ出ると同時に、
あっという間に子も増える。
それ相応の設備を整えていないと飼いきれなくなるし、また、雄同士は成長すると殺し
合いになるので単独飼育が必須だ。
江戸時代の人々に負けないくらいの管理と愛情を注がなくてはならないのだ。

そんなこんなで、目下私の部屋はネズミ水槽だらけで(他のペットもいるが)今日も世
話の順番と遺伝子記号で頭はいっぱいなのである。
小さな水槽の中で繰り広げられるネズミの世界に、人を含めた生き物の縮図を見るよう
で、毎日が刺激的で色々教えられる。

さぁ、明日は仕事に集中しよう・・・うん、そうしよう。