今月のエッセイ
2014.2.1 『細長い肩甲骨・・・鳥とモグラの前足の話』松本晶

空を飛ぶ鳥類と土の中を掘り進む哺乳類であるモグラは、もちろんまったく違った生き物だ。
ところが、体の作りに似た所があって比べると面白い。
鳥は強風を受けながら翼を上下に動かすため、モグラはせまい坑道の中で大きな前足を左右に動かすため、ともに細長い肩甲骨を背上面に持つ。
なぜなら、細長い肩甲骨はそこに筋肉を効率よく付着させ余計な場所をとらないから、それぞれの背中にピタッと収まり抵抗の無い体のラインを作ることが出来るからだ。
ちなみに、他の四足歩行獣は手足を主に前後に動かすため幅広い肩甲骨を背側面に持つのが普通である。
二足歩行の人間など、四足全てを体重維持に使用する必要が無くなった生き物は、それぞれ肩甲骨の形と位置を大きく変化させている。
肩甲骨の基本形が四足歩行獣のものであるとすれば、特にモグラのそれは究極の変化を経て、まるで空を飛ぶ鳥のごとく背上でお互いくっつきそうな距離を保って存在している。
そして、鳥もモグラも強大な胸筋と特殊な骨を持つ。
鳥の胸筋は全筋肉量の3分の1を占め、その分厚い筋肉を付着させるために船底のキールのような形の胸骨(竜骨突起と言われる)をしている。
モグラも鳥ほどではないが大きな胸筋を持っていて、その保持と付着面拡大のため胸骨が二重構造になっている。
また、鳥は飛翔時に受ける空気抵抗で翼が折れないように、肩から手首にかけて長い筋肉がまるでつり橋のワイヤーのようにつながっている。
鎖骨の他にも烏口骨(ほとんどの哺乳類にはその痕跡しかない)が肩と胸骨を連結し、強靭な前肢構造を作っているのだ。
一方、モグラも堅い土壁を手と爪でたやすく崩せるように、強力な三角筋・大円筋(わきの下の筋肉)・指伸筋(指を伸ばす筋肉)などを付着させるために複雑な形の上腕骨をしている。
鎖骨は太く短く、長く突き出た肘の骨(尺骨)には強力な上腕三頭筋が付着したくましい腕を形作る。
手首から先のみ(足は“足首から先”のみ)体から出ているので肘(膝も)が邪魔にならないのも利点だ。
生活環境は大きく違っても、体の内部構造を見ると鳥もモグラも前足にほとんど全てを託した生き方をしていることがよく分かる。
生き物の“美”は、見えるところばかりとは限らないことを、彼らの「前足」が伝えている。