今月のエッセイ
『石榴』関口猪一郎
60年あまり前、故郷で近くに住む老人が渡辺華山の「石榴」の掛軸を持っていると聞き見せて頂いた。
割れた実の中の「赤い顆粒」を赤い色で、枝や葉を墨で描いた小さな掛軸だった。
その印象は忘れ得ぬ「石榴」への憧れを残した作品となった。果たして「華山」作の本物だったかどう
か不明であるが・・・。
渡辺華山と丸山応挙は偽作が多いと云われているが、本物の「石榴」を目にした事の無かった私は憧れ
の果実となったのである。
「石榴」の実には宗教的、伝説的な物語りも伝えられ日本画作品にも名作が多く残されている。
それらの作品に会って自身も近くでその樹を育てている方、持ち主の方のところでスケッチや撮影をさ
せて頂いて画想を暖めている。
ある時スケッチしているとどこからか「マドンナの宝石」の曲が流れて来て思わず手を止めて聞き入り、
この曲の「宝石はルビーだ!」と勝手に思い込んだのだ。
この時以来私はこの曲を耳にすると思い出すのだ。
石榴と云えば赤いと思うが「白い実」のある事を息子が小学生の時の担任をして下さっ た女性の教師の
方から教えて頂き、長野のご実家から枝ごと取り寄せて下さり、スケッチ をした心に残る思い出もある。
今も石榴の赤い花・青い花実・熟れて赤く光る果実・割れた実を食べにくる雀たち、ヒヨドリ達の様子
を観ながら画想に思いをめぐらしている。

紅果白宝

紅果

白馬行(石榴)