Essay

2023.05.17

『南飛騨御嶽山の麓に移住して』浅井粂男

♪木曾のなあー なかのりさん 木曽の御岳さんわあなんちゃらほい♪
木曽節で知られた御嶽山は長野県の山と思われていますが長野県側は御嶽山の南東斜面で、北西斜面は岐阜県です。南西側を流れる木曽川は岐阜県中津川で飛騨川と合流しますが、飛騨川は乗鞍岳、御嶽山の水を集めて、本流木曽川に劣らぬ流域面積を持っています。
 私の住む下呂市は人口こそ少ないが御嶽山の頂上から西側に広がる広大な面積を持ち。深い谷と標高千メートルを超える山々に囲まれて、岩をかむ激流は独特の渓谷美を創り出してきました。下呂市萩原町あたりで少し開けた南北に長い盆地状の地形になりますが、それでも前も後ろも千メートルを超す山が連なり、毎日のように川霧が立ち昇り、40年以上海辺の町で暮らした私にとっては幻想的で美しい景観に思えます。
 残念なのは御嶽山のそばにいながら御嶽山はどこからも見えません。唯一支流小坂川の一角に見えるところがありますが山の肩越しにちらりと見える御嶽山の真っ白な頂きは、今の季節、新緑にはえて感動的です。この小坂川をわずか数キロさかのぼったところに「巖立峡」といい、御嶽山が54000年前に噴火した時の溶岩流が流れ止まった安山岩の断崖があり、ここから17キロ上流まで続いているとのこと、かっては自然の驚異がこんな近くにまで及んでいたことに驚かされます。ちなみに、私の住んでいる下呂市は日本一の大断層「阿寺断層」の真上にあるそうです。

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 「御嶽山の自然と文化を見直す」集い(高山市民文化会館)に参加してきました。
御嶽山は(3067m)は中部山岳地域の典型的な植生の垂直分布が、低山から高山までまとまった形で見られ、氷河期から残る植物も多くみられる優れたフィールドを持つ山だそうです。
 氷河時代に平地でごく普通に生きていた動物や植物が、氷河期が終わると次第に高い山のほうに追いやられ山地帯、亜高山帯、高山帯を形成し現在に至る様子が御嶽山では鮮明にわかるそうです。コマクサ、チシマギキョウ、イワギキョウ。鳥ではライチョウが白山、木曽山脈、八ヶ岳では絶滅しているのにここでは30の縄張りが確認され100羽近くが生息しているそうです。こんなに自然豊かで貴重な生物環境が残る御嶽山が中部山岳国立公園に入って
いないのだそうです。1999年になってやっと県立自然公園になったそうですが自然保護策が一番ゆるい、開発に何の規制もない開発可能な名目だけの自然公園化だそうです。その陰には大規模観光開発を目論む企業の意向があったのではないかと伺えます。事実、亜高山帯針葉原生林を、標高2200メートルの高所まで切り開いてつくったスキー場も「チャオ御岳スノーリゾート」も経営破綻し、もう3シーズン閉鎖しているそうです。
 高山市在住の「飛騨高山ふるさとを歩こう会」の小野木三郎会長は「日本自然保護協会」とともに御嶽山を国立・国定公園に指定するよう国や県に要望書を提出しています。私もまた自然を描くことを生業とし、この地を第2の故郷と決めて移住してきたのですから、この運動に賛同し自分にできることで微力を注いでいきたいと思っています。

2023年5月記 浅井 粂男 

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