Essay

2023.11.13

『千歳にて』佐藤忠雄

10月中旬、北海道千歳市にある「サケのふるさと千歳水族館」にて企画展が行われ、搬出作業と実演イベントのため四日間滞在しました、サケが遡上する姿を間近に見られる珍しい施設だ。
実際には千歳の自然を満喫するのが個人的な目的で、会場でのスケジュール以外は早朝から日が暮れるまでひたすら千歳川周辺を散策する日々を過ごした。
今年は水温が高く遡上の時期が少し遅れたようだが、子孫を残すため河口から70キロ以上も上流にあたるこの川に多くのサケが遡上し、そして一生を終えて行く。
さすがに体は傷だらけだが生命力に満ち溢れ崇高な美しささえ感じられる、時間を忘れ見入ってしまう。
人間社会では、どこかで戦争が起こり、経済は右肩上がりでなければならず、少子化は都合が悪くて産めよ増やせよの政策が空回り、エネルギー資源を奪い合い、また衝突がおこる。
人類はきっと地球を滅ぼすに違いないと思ってしまうが、彼らは太古から純粋に自然との共生を続けている。

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 このあたりで暮らしてる方は、自然との距離が非常に近いことを意識しているように思う。
家のすぐ脇の川をサケが群れをなし遡上し、平日なのに釣竿を担いで釣りをしている初老のおじさん、庭先には鹿やリスなどの動物が顔を出し、たくさんの種類の鳥たちが行き交い小さな餌場が用意されている。白鳥の群れが澄んだ空を鳴きながら朝焼けを背に渡ってゆく、ホテルで窓を開けたまま寝ていた私もその声で起こされてしまった、外を眺めると広大な自然が朝日に染まって気持ちがいい、ペットボトルの水をがぶ飲みし朝食も取らずに出かける準備を始めた、その日は、千歳川上流にある支笏湖まで足を伸ばし一日のんびりすることにした。

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自然の中に身を置くとき、人それぞれどのような思いで見るかは違ってくるのだろう。私の場合は絵描の目でこれをどう描いたら良いのだろうとか、釣り師の目であそこに絶対大物が潜んでいるはずだとかその時々で思いを巡らせている。他人から見たら冷たい水に立ちこんでひたすら竿を振っている親父は変に映るかもしれないが、単に暇つぶしとか郷愁ではなく、ストレスの多い生活の中で無意識に求める必要で大事なことのように思える。
生産的で世の中の役に立つとは思えないが、少なくとも自分を取り戻す時間になること は確かだ。

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