2020.11.2
今年2月から会員になった上野です。剥製の製作・販売を仕事にしています。
理科美術に関わる方は生き物が好きな人ばかりだと思いますので、ご自身で標本を作る方もいらっしゃるのでないでしょうか。昆虫標本の製作は人気があると思いますが、私は1度だけカブト
ムシを作り、そして失敗したそれきりです。子供のときの話ではなく、数年前の依頼の話です。今思えば職場の専門は鳥、動物、魚(現在は休止)。なぜ引き受け、なぜまだ素人同然の私が製作した
のか不思議です。もともと足が折れているカブトムシの足を2箇所ほど追加で折ってしまい、あれ、元の位置は、などと迷いながらなんとか元に戻して納品しました。全く笑えない話ですが、
おおらかなお客様には無事受け取っていただけました。それ以来虫の製作は受けていません。頼まれることもありません。自分でつくれますものね。依頼製作の大半は一般の方からのペットで
す。死んだ野鳥を拾った方や博物館・大学など研究関係から野生鳥獣の依頼もありますが、それら全部あわせてもインコや文鳥の製作数にはやや劣るのではないかと思います。ちなみに狩猟鳥
獣の依頼は毎シーズン(猟期)で片手で数えられる程度です。
剥製文化が肥沃な欧米では(少し私の偏見が入りますが)、剥製といえば猛獣がドーンでバーンとしたワイルドな迫力を超絶技巧でもってして再現するのが主流であり、ペットの製作依頼を受け
るのはそれと比べると退屈で、技量次第では依頼主を悲しませてしまうやり難い仕事と思われている気がします。また博物館勤で製作をされる方は一般からの依頼はないでしょう。

どちらもアメリカで開催される世界剥製大会に出品された作品。とにかくスケールが大きい

私がペットの依頼を受けるのは、そもそもは勤め先の意向ですが、製作者にとっては緊張を強いられるような依頼主とその飼育動物の何ともいえない愛情を、けっこう興味深くみているから
です。剥製師になりたいと思った時、私は「鳥類専門の剥製屋になって、いつかアオサギとかコウノトリでも作れたら嬉しいわあ」などと当時好きだった鳥(の死体)に触れる妄想をぼんやりし
ていました。勤め先が決まり、そこがペットの依頼を断らない様子をホームページで伺いながらまだ見ぬプレッシャーに頭を抱えてた時期もあったのですが、店にやってくるお客さんと接するう
ちに「これはやった方がいいな」と思うようになりました。「やった方がいい」と言える立場でもなく日本では剥製業はマイナー中のマイナー職、やらないと業務自体を続けられないのが正直な話でもあります。ただ、野生動物の製作と違ってペットの場合は、形態への理解だけでなく飼い主への理解も合わせた方が上手く作れるところがあり、そこが妙で面白いのです。

筆者が製作したペット依頼品の例。よくお花を添える

剥製に興味を持った理由のひとつは「何故のこしたいのか」ということでした。博物標本の場合、研究に基づくその理由は明瞭です。ペットの場合はいわゆるペットロスを抱えるお客様もい
らっしゃいます。喪失感の補完が理由なら、姿を残せるといっても100%は不可能なこの仕事は、むしろ新たな寂しさを与えてしまうのではと不安に思っていました。まあ、もしかしたらそんな
気持ちになった方もいらしたかもしれませんが。
とあるお客様ははっきりと剥製を「供養のかたち」とおっしゃっています。また別の方は「忘れるから」と。「存在感を残したい」という方は何人かいらっしゃいましたが、一番多いのはシ
ンプルに「綺麗な姿をとっておきたいから」だと思います。だから土に埋めたり火葬を頼むことはできません、お願いしますとおっしゃるお客様に対して、製作とは違う視点で興味が湧いてしまったのでした。
今さら剥製の仕組みの説明ですが、鳥の場合は概ね胴体の腹側の中心を一直線切り込みを入れ、そこから皮を丁寧に剥いでいき、翼、足の骨、頭骨は周りの肉を削いでそのまま残し、皮に
ある余分な脂肪を除去して綺麗な皮の状態にします。鮮度が良いと羽は皮から離れません。傷んでいるとバラバラに落ちてしまうので、これだと作れません。胴体の芯を木毛かウレタンで作り、
皮を洗剤で綺麗に洗って乾かし、翼、足に針金を通しワタで肉付け、頭骨にはやはり針金を通した首芯をつけ、頭部に粘土を盛り義眼をつけます。胴芯の正しい位置に全てをつなげ、切り裂いた
一直線を縫い合わせて、再度乾かし、尾羽を針金で固定し、整えて完成です。簡易的に書いたためあまり伝わらないと思いますので、気になる方は「how to make bird taxidermy」とgoogleや
Youtubeで検索ください。動物の場合は複雑ですのですみませんが割愛します。
ペットの依頼をうけることに不安を抱いていた理由の一番は、要は「人様が大切にしていた生き物を、他人が材料として扱っていいのか?」ということでした。かつての疑問に現在持っている答えは「向こう(依頼主)がいいって言ってるから、いい」です。何故ならそうしないと解決できないことがあるから。飼育動物の依頼は飼育者の感情を自ずと受け取ることになります。大概は透けるように窺われるものですが時々はダイレクトなので、確かにやり難いイメージを持たれるのは納得なのですが。お客様とお話しして、私の技量でも役にたてそうであれば今後も続けていきたい仕事です。
理科美のエッセイですのでもっと製作に即した話を書くつもりだったのですが、資料の用意をする時間が無く、、。普段とりとめなく考えていることを書いてみました。ここまで読んでくださ
りありがとうございました。

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